シンガポールでの銀行口座開設は難しくなったのか
年々、特に非居住者の口座開設は厳しくなっている話をよく耳にします。
日本居住者でも口座開設が可能な金融機関は引き続き存在しますが、今回はどういった点が「厳しくなっている」のか、お話しします。
(背景)マネーロンダリングに関する規制強化:
この10年で、マネーロンダリングに対する金融当局の規制が世界的に強化されました。
スイスのプライベートバンクでさえ、秘密主義から当局の要請に基づいて情報を開示する方針へと転換しました。
シンガポールも例外ではなく、マネーロンダリングに関する規制を強化しています。
金融機関への罰則:
金融当局の規制に違反した顧客は当然刑罰の対象になりますが、加えて金融機関も違反に加担した責任を問われることになります。
最近ではゴールドマン・サックスが1MDBスキャンダルにより、和解金として39億ドル(約4,100億円)を支払うことでマレーシア政府と合意しました。2014年にはBNPパリバがマネーロンダリングに関する罪で米当局に90億ドル、脱税幇助の罪でクレディスイスが28億1,500万ドル、2012年にはマネーロンダリングの罪でHSBCが19億ドルを米当局に支払う罰を受けています(いずれもググればすぐに詳細が出てきます)。
金融機関の対策:
KYC(本人確認)により重点が行われるようになりました。KYCを疎かにしたことで規制当局からの処罰を受けた場合、上記のように金融機関に与える金銭的損害は巨額となるためです(当然金融機関の評判も低下します)。結果として、口座開設時には以下の書類の提出が求められるようになりました。
個人口座の場合:
書類 |
目的 |
パスポート |
身分証の確認 |
住所確認書類 |
居住地の確認 |
バンクステートメント |
入金資金の出所を確認 |
給与明細 |
資金の源泉を確認 |
確定申告書類 |
|
配当金支払通知書 |
法人口座の場合(個人でも経営者であれば提出を求められる場合あり):
書類 |
目的 |
登記簿謄本 (Certificate of Incorporation) |
法人格を持った法人であるか、所在地、業務内容、役員等の確認 |
印鑑証明書 |
提出する書類に捺印がある場合の印鑑照合 |
Authorised Signatory List |
署名権限の確認 |
役員名簿 |
役員の確認 |
株主名簿 |
株主の確認 |
財務諸表 |
財務状況及び資金の源泉確認 |
また、
- 相続金や贈与、金銭貸借が源泉となる場合はそれらを証明できる書類及び源泉となった方に関する情報、
- 会社勤めの方は職歴や過去の年収、
- 経営者の方は資本金の源泉や法人に関する内容等の情報提供が求められる場合もあります。
以上はあくまでも一例です。必要書類は金融機関によっても異なり、更なる書類提出を求める金融機関もあります。
尚、これらのKYCは口座開設後も続き、銀行が既存顧客に対しても資金の源泉を確認する書類提出を求める場合があり、要請に応じない口座については口座が解約される場合もあるので要注意です。余談ですが、シンガポールではコンプライアンス業務に従事する人員は年々拡大傾向にあります。
以上、口座開設が厳しくなったと言われる所以をまとめました。
現在でもHSBCやCiti、DBS等引き続き日本居住者であっても口座開設は可能ですが、規制環境の変化に伴い口座開設に必要な書類や本人確認が以前に比べて「厳しく」なっている点は事実で、今後もこの点が緩和されることはないと思われます。